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Case.09 エルフの里帰り

Author: 涼風紫音
last update Huling Na-update: 2025-10-24 20:05:16

 いつものことだけど、人間というのはチョロい。美しすぎる私の美貌の前にひれ伏し、崇め、勘違いしたバカは股を晒す。

 一般にエルフは長命で魔法を自在に操り弓に長けた種族として知られている。人間の間では。その認識はだいたい正しい。だいたいは。

 私は残念ながらそこまで魔法が得意ではない。いけ好かない師匠は言うに事欠いて「あなたの魔法はせいぜい人間レベルね」とか言いやがった。

 それに対して「私の魔法は常時発動型の魅力《チャーム》なので」と言い返したら、今度は「冗談は顔だけにしてちょうだ」とまで言ってきた。この美貌が冗談であってたまるものですか。

 どこを取っても意見もウマも合わない師匠のもとへ、今日は行かなければならない。憂鬱だ。二度と会わないで済むなら神の存在を信じてやったっていい。

 そんな憂鬱な仕事を引き受けた理由はたった一つ。報酬が抜群に良かったからだ。

 大陸の中央でいまにも始まりそうな人間の大国同士の戦争は即戦力を必要としていた。優秀な魔法使い、騎兵、飛龍などなど。

 つまり密書を運ぶ仕事は至るところに転がっていた。エルフの協力を得たいと考えた人間がエルフの里にエルフの運び屋で封書を運ぶ。人間にしてはちゃんと考えているあたりは褒めてあげましょう。

     ◇◆◇

 エルフの里に人間は立ち入れない。そしてエルフの運び屋は少ない。魔法で稼ぐ方がよほど手っ取り早いのだからこの仕事のうまみはエルフにはあまりない。だいたいは。

 そうしてまたしても宙に浮き値段がつり上がった仕事はついに私の目に留まったという次第。それにしても、依頼の運び先は受領サインをする前に気づくべきだった。つい報酬に釣られてしまった私。まあ中央に戻って散財したしたまにはね?

 エルフの里は大陸の中央から北東にある広大な森林地帯にある。魔法の技で位が決まる超絶格差社会の里。一度その技がランク付けされれば後天的に覆すのはかなり難しいし、その素養に乏しいともなればその機会すら与えられない場所。

 私の美貌を腐らせるには相応しくないそこを飛び出して世界を渡り歩くだけの理由はそれだけで十分だった。

 思った通り人間の社会

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